【no.01】坂田のおじちゃん
坂田さんは毎朝7時に店を開ける。
シャッターを全部開けたら、お店の外の椅子に腰かけ、登校する子供たちひとりひとりに「おはよう!」と声をかける。
7時にお店を開ける理由は学校の中に「購買がないから」だそうだ。
「朝起きて、名札や消しゴムがなかったら嫌やろ?
そんな時はな、おじちゃんとこに来てから学校に行けばいい。」
坂田百貨店は綾中学校の隣にあって学用品や衣料品の販売をしている。綾小学校へ続く交差点のすぐそばなので、登下校時はたくさんの子供たちで賑わっている。
坂田のおじちゃん、こと坂田正夫さん74歳(取材時)は、綾町生まれ綾町育ち。20歳まで東京の衣料品問屋で働き、綾町に戻ってくると同時に「坂田百貨店」を始めた。その時から綾の子供たちに「おはよう」と声をかけ続けている。計算すると、、実に54年。当時の中学3年生が今はなんと68歳で孫もいる年代になっているというから驚きだ。30歳の時には、今も活動している綾の少年野球チーム「綾ヤンキース」を立ち上げて指導にあたり、、40代からは民生委員・児童委員を務め始め、今年で30年。
少し話を聞いただけでも、想像以上に綾の子供たちを見守り続けている坂田さん。どうしてそんなに熱心にできるんですか?と聞くと
「おじちゃんはな、子供のことは断らん。」
「綾の子供のためならな、おじちゃんはどんなことでもするとよ。」
なかなか、自分の子供にもはっきりと言ってあげられるか分からないようなことを、正夫さんははっきりと、力強く言葉にしてくれた。
「よく思われてばかりではないとよ。中学校の頃におじちゃんに怒鳴られてな、おじちゃんの顔を見ると今でも「わー」と思う人もいると思う。ここで見てるとよ〜く分かるな。」
子供に注意することを躊躇する大人が多い中、坂田さんは進んで子供と関わり続けてきた。なぜなのか。
「それはな。坂田のおじちゃんがな、
”もはんてきでない”子供だったからよ。」
子供は素直で真っ直ぐだ。真っ白で柔らかな存在だ。それぞれ生まれながらの性質はあるにしても、周りの環境に染まりやすかったり、すぐに汚れてしまったり、簡単に曲がってしまったりする。
子供という漢字の「供」がよくないという論争があったが個人的には子供でよいと思っている。なぜなら子供は、大人がきちんと守ってあげて、その後ろ姿を見せてあげることで社会性が育っていくと思うからだ。(ちなみに2013年に文部科学省は「子供」で統一にしたそうですが、温かみを感じるのはひらがな表記ですね。)
「人の痛みが分かるのはね、底辺を知っている人間じゃ。」
坂田さんの言葉には重みがある。優しく温かい。
社会には理不尽なことも多い。生まれ育った環境など、子供を囲む環境もそれぞれだ。それでも綾の子供たちには強く、しっかりと前向いて生きていってほしいという想いが伝わってくる。
「おはよう!」
の一言。でもじぃっと、毎日、ちゃんと子供たちを見ている坂田のおじちゃん。こんな人がいるだけで、子供たちの心は違うはずだ。
話は変わりますが坂田のおじちゃんは目利がすごい。
坂田百貨店さんは学校指定品の販売店になっているので、うちの子も学校の外ばきを買いに来るのですがそのアテンドの見事なこと…
「外ばきがほしいんですけど〜」
「…○センチやな!」
と言われて出された外ばきに足を入れてみると……これが毎回ピッタリ!
大きすぎず、小さすぎず、親指部分には若干のゆとりを持たせてある。
どうしてぴったりのサイズがすぐに分かるんですか?と聞くと
「まずな、体型と履いてる靴を見る。」
「ふむふむ」
「それで大体わかる。」
えーー!
プ、プロフェッショナル……!!
靴のことも、悩みごとも、坂田のおじちゃんに相談してみてくださいね。