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しげながきのこ

食品ロス。
フードロス。

まだ食べられるのに廃棄されている食品の量。552万トン。これは、世界中の飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧支援量の1.2倍相当です。もったいないと思いませんか………なんて言われて私に何ができるだろう。

スーパーは当たり前に食品で溢れている
見慣れたいつもの風景

悲観的で世界規模な話になると、自分にできることは何もないような気がしてしまう。これからの時代はきっと悲観的なアピールよりも楽しいアクションだ。美味しい。可愛い。面白い。そんな気持ちで行動したら、意図せず問題解決に協力してしまっている……これがいい。この仕組みをつくることが多分、たくさんの人を巻き込み、社会の問題を解決する秘訣なのではないだろうか。

そういった意味で我が町の「しげながきのこ」さんは、あれ?もしかして社会起業家でしたか?と思うほど軽やかにアクションし続けている。

綾町の中心から南へ3キロ。室町時代から江戸時代に活躍した刀工 田中国広の生家もある古屋地区に、しげながきのこ(宮崎産業有限会社)はある。1989年創業。九州初のぶなしめじ生産工場で、現在はぶなしめじの他にホワイトしめじ、ひらたけ、エリンギを生産し、地元のスーパー、飲食店、学校給食などに卸している。

室温5度の倉庫の中で育つきのこたち。菌たちに聴かせるため施設内にはJAZZが流れる

しげながきのこの特徴は大きく分けて3つ。
①殺菌剤不使用
菌であるきのこは雑菌に弱く一般的に殺菌剤が使われることが多いが、毎日の衛生管理を徹底することで殺菌剤を使わないきのこづくりをしている。

毎日毎日ひたすらに掃除。入社当初はとても嫌だったこの作業が、良いきのこを作るために大切だと実感した時、嫌な作業ではなくなったそう。

②麦飯石(ばくはんせき)

麦飯みたいだから「麦飯石」なんですって

石英斑岩の一種で水を活性化させたりミネラル分を溶出する作用がある麦飯石は。しいたけのような原木栽培ではなく、しげながきのこは菌床栽培。おがくずや米糠を入れたポットの中に麦飯石の粉末を加え、きのこ本来の旨味を引き出している。

これが菌床栽培。きのこたちはこんなポットで育ってます!
かわいいホワイトしめじ

検査結果によるとしげながさんのエリンギのグルタミン(旨味成分)は、一般のエリンギの5倍!「しげながさんのきのこにしたら、料理の味が変わりました!」と言う飲食店も多い。

宮崎市の居酒屋「ばる人」さんもしげながさんのきのこに変えたら料理の味が変わったと言う方のひとり。しげながきのこと砂肝のアヒージョが絶品!

そして「きのこのおしり」
しげながきのこの「きのこのおしり」はいしづき部分を商品化したもの。実は栄養価が高く旨味や香りの強いいしづき部分。味や食感は申し分なく、一袋にぶなしめじ・ひらたけ・エリンギと3種類入っているのでお得感がある。すでにカットされているので調理の際に包丁がいらないし、きのこは冷凍もできるので、多めに買っておいて冷凍しておけば、何かもう一品…という時も安心だ。

フライパンを熱し、バターを入れ、袋からそのままおしりを投入!(大きいのは手で割いてくださいね)全体的にしんなりしてきたら鍋肌から醤油を回しかければ出来上がり!これにご飯とお味噌汁。焼き魚でもあればこれはもう、、、しあわせでしかない(しあわせのレベルが低い筆者)。

と、こんないいことづくめの「きのこのおしり」
実は今まで廃棄されていたものだ。

菌床栽培のきのこはこのようになっている!
ちなみに菌床部分は発酵させ有機肥料になるので余すところなく使える。きのこスゴイ。
収穫後、カットと選別され包装されるきのこたち
魚介類のようないい出汁の出るひらたけは京都の料亭へ送られる
エリンギのいしづき部分。おがくずを丁寧にとりのぞき「きのこのおしり」に変身する
買わない理由がない(価格は当時のものです)

廃棄量を減らして売り上げを補填したかったんです

そう話すのは専務の重永和樹さんだ。

プロバスケットボール選手を目指していた和樹さん。背が高い。

原料費や重油代が高騰し売り上げが下がる中、今あるものでどうにか売り上げを補填できないかと考えた結果が、いしづき部分の商品化である「きのこのおしり」と「きのこパウダー」でした。

固定費が上がっているのに商品の値段は上げにくい。そんな状況に立たされている生産者さんは多い。規格外を使えば…なんて言葉をよく耳にするが、規格外の商品化には手間とコストがかかる。加工工場も機械の都合上規格外は受け入れられないことが多いし、そもそも規格外品を出すことを嫌がる生産者さんもいるし人件費もかかる。試算を重ねた結果、加工せず廃棄するのが一番手間もお金も掛からない。となることがほとんどだ。そう思うと手間をかけてでも商品を作るという重永さんの覚悟は相当だったのではないだろうか。

とにかく出来ることをなんでもしようと思って。最初は注文が入った分だけ「きのこのおしり」を作って、あとはイベントで販売していました。

同じ頃。和樹さん(しげパパ)の奥様(しげママ)が企画広報担当になり始めたのがイベント出店だ。多い時は月の半分を県内のあちこちで出店。それがきっかけとなって新たな販売先が増えたり、出店仲間がきのこを食べてくれて、さらに商品に使ってくれて、それがまた評判をよび…という嬉しい連鎖が起きている。2022年の夏には、宮崎市のショッピングセンターで「しげながきのこの夏祭り」が開催され、たくさんのコラボ商品が販売された。

ショッピングセンターで!きのこ屋さんのイベントって!スゴくないですか!
イベント名物「きのこの収穫」は子供たちに大人気!
「きのこの収穫楽しい!」採れると思わず笑顔になる
きのこの旨味たっぷり「きのこのおしりドレッシング」
しげながきのこのきのこを使った「きのこバーガー」
これこれ〜〜「ばる人」さんのアヒージョ!
きのこのアクセサリーも!可愛い!

しげながさんを見ていると、やっぱり、何かを起こすのは、人と人のつながりなんだな〜と思わずにはいられない。一つ一つの関係を大切にすること。きっかけを見逃さず乗れること。さらにしげながさんには自信を持って美味しいと言えるきのこがある。こりゃ最強だ。

生産管理を担当するしげパパ(右)と企画広報を担当するしげママ(左)

やれることは全部しようと思ったという言葉の通り、きのこのおしりの販売、イベント出店と同時にネット販売にも力を入れたしげながさん。ポケマル、let、産直アウル、メルカリなど、生産者と消費者が、手軽に、直接つながることのできる仕組みが出来たことも大きかった。直接販売は市場や業者を通さない分、利益も増えるので生産者にとっては非常にありがたい。自社サイトよりも利用者の多いサイトに登録することで、認知も高まり、新規のお客様の獲得にもつながった。letではベスト出品者賞や準クチコミ賞にも輝きリピーターさんも増えている。通販とイベントのみの販売だった「きのこのおしり」も、今では「きのこのおしり」が目当てのファンも増えた。

さらに新たな取り組みも始まっている。
小さかったり、大きすぎたり、曲がっていたりの規格外の野菜や果物、一般の市場には出されず廃棄されてしまうものを集めた”しげながきのこの八百屋プロジェクト「ちんちくりん」”だ。

イベント出店に合わせて、できることから始めていく「ちんちくりん」詰め放題で200円

きっかけとなったのは配達の際にいただく廃棄野菜。
生産者さんの「どうせ捨てるから」の言葉に何か出来ることはないかと考え、イベント出店時に実験的に販売することにしたのだ。
取材時の和樹さんの言葉を思いだす。

やっぱり、大切に、手をかけてつくったものが食べられずに廃棄されるっていうのは…生産者にとって一番つらいんですよね。

食べられるのに、捨てられてしまう野菜。房から外れて売り物にならないぶどう。どれもこだわりの美味しい野菜に果物。これらは普段、私たちの知らないところで捨てられてしまう。捨てられていることは、私たち消費者には見えないから、それはもとから存在しないことのようになってしまっている。まるで生産者と消費者の間に壁があるようだ。その壁を力づくで破るのではなく、しげながさんは軽やかにドアをつくり爽やかな風をいれる。

市場に出せず捨てられてしまうちんちくりんな野菜や果物も、視点を変えれば食費のかかる子育て世代や、少しだけ必要な一人暮らし世帯。質の良いものをちょっとだけとか、食べられる分だけ買いたいという人にとってはちょうどいいんじゃないかと思うんですよね。

言われてみれば本当にそうだ。私たちは無意識に今ある常識のようなものに囚われすぎているのかもしれない。難しく考えず、とりあえず、今出来ることを、すぐやってみる。しげながさんのその姿は、なんともかっこいい。

きれいにカタチの揃った野菜、重さを揃えられた美しい果物。みんなが同じ量の整えられた規格を平等に買うシステム。それはそれで良いけれど、規格や型、常識に囚われることなくなったら…生産者や消費者の事情をみんなが知れるようになれば……この世界はもっと優しくなる気がする。






2022年9月。非常に強い勢力で九州に上陸した台風ナンマドル。
町内での河川の氾濫や家屋への浸水は免れたものの、しげながさんの工場は3日間停電。温度管理の必要なきのこたちは壊滅的被害を受けた。

当時のSNS

生き残った「お早めにお召し上がりくださいきのこセット」をお安く販売します🙇🏻‍♀️

この投稿に多くの人がコメントを寄せた。
そして次の日の投稿。

連絡をくださったり
販売してくださったり
ご購入してくださったり
ご紹介してくださったり
拡散してくださったり
代わりに手売りしてくださったり
本当にありがとうございます

感動した。

生産者が困った時に困ったと言えて、助け合える関係性。
生産者→市場→お店→消費者では見えなかった世界が見えるようになったことで起きた変化。生産者と消費者が直接つながり、その関係がより強くなることで、世界はものすごく優しいものになる気がする。



きのこのおしりはふるさと納税の返礼品になっています。
(ただ今「エリンギのおしり」のみの受付となっています)

同じくいしづき部分を使用した「きのこパウダー」
加工は町内の就労継続支援B型事業所「NPO法人綾グリーンガーデン」
天日干し後に機械乾燥して粉状にしている。天ぷらやスープなど、お料理の隠し味にどうぞ!

しげながきのこ(宮崎産業有限会社)
1989年に九州初のぶなしめじ生産工場「しげながきのこ綾観光農園」を設立。安心・安全で生命力溢れる健康きのこをお届けすると共にフードロス削減やイベント出店にも力を入れている。
https://www.shigenagakinoko.com/

イベント出店情報はinstagramから
https://www.instagram.com/shigenagakinoko/

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